2021年12月4日土曜日

アラン

  




深夜。

















目を覚ましたミカエルがベッドから起き上がる。



































ソファーで眠るアランをしばし見つめる。
















ミカエル「・・・・。」


































寝室へ戻るとクローゼットを開けてブランケットを探す。





















































起こさないようにそっとアランの身体にブランケットをかける。






































































アラン「ん・・・。」




















あたたかい・・・・。

この感覚・・・・。














あいつだ。
デュアン マクドウェル。

















バーテンとして店に入った俺に言葉巧みに近づいた男。

そして俺たちは親しくなり、いつしか身体の関係になった。
あいつはゲイということを俺以外の人間には隠していたから、俺たちの関係は秘密だった。

















ダークトライアドという言葉がある。
サイコパス、ナルシスト、マキャベリスト。
あいつにはそのすべての要素があった。
気付かぬうちに惹きつけられ、あいつの手の中に落ちていく。
そんな人間は多くいたし、俺はそれを見抜いていた。
















でも俺は逃げなかった。
心地よかったからだ。
あいつの腕の中が。


















女を騙して貢がせる。
周りの男たちにはいい兄貴面をして優しい先輩を演じる。
そしてその裏では男の俺を抱く。
誰にも知られないように。
俺の前でだけは本性を現していたように思えた。
だからべつに奴がどんなことをしていようが俺には関係ないと思っていた。

















時にはドラッグを使ってセックスするときもあった。
あいつはそれが一番好きだったし、あいつに勧められて俺も一緒にやるときもあった。
ハマらないように、俺は注意していたけど。


















でもそれがあいつの仇となった。



















アラン「ん・・・。」


















目を覚ましたアランがソファーから起き上がる。




















見覚えのあるブランケットにそっと手を置く。


















アラン「・・・・。」



































寝室で眠るミカエルを見つめる。



















アラン「・・・・。」




















暗闇の中テラスへと出る。


















アラン「なんで今更あいつの夢なんか・・・・。」























アラン「(デュアン・・・。)」



















アラン「(俺が殺した二人目の男・・・・。)」





















いつものようにセックスしている最中にあいつは突然言った。



















デュアン「お前、人殺したことがあるんだってな。どんな気持ちだった?」





















アラン「え?」





















どうやって調べたのかは決して言わなかったが、あいつは俺の昔のことを色々と調べたらしい。

たぶん、俺のすべてを知りたくなったんだろう。
そして自分だけのものにしようと、そう思ったのかもしれない。



















その日から俺はあいつに疑念を抱くようになった。




















最初は客として払っていた金も当たり前のように払わなくなっていったし、徐々に俺の行動を縛るような言動が増えていった。

















いつの間にかあいつは俺を支配しようとしていた。

















ある日俺は偶然を装ってあいつに声をかけた。















あいつの行動はだいたい決まっていたし、俺はそれを知っていた。
水曜はいつも決まってジムでトレーニングしたあとこの店で呑むのがお決まりのパターンだ。















店に入る前のあいつに俺は声をかけた。

















あいつはなんの疑いもなく俺の誘いに乗ってきた。
あいつの車で俺たちはドライブに出かけた。


















俺たちは酒を買って街から離れた。





















街はずれの森の中に車をとめて、酒を飲んでドラッグをきめた。


















あいつはあの日いつにもまして上機嫌だった。
俺のほうから誘われたのがはじめてだったからだろう。
きっともう俺が自分のものになったと思っていたのかもしれない。



















俺がすすめるとあいつは調子に乗ってどんどん酒を飲みドラッグをきめた。
完全にハイになってた。
あの日はいつもより乱暴に俺を抱いた。
















殺すのは簡単だった。
フラフラのあいつを連れて星を見ようって、近くの崖へ向かった。
地面に座ろうとしたあいつを押したらよろめいて崖の下に落ちて行った。















辺りは真っ暗で車も通らないようなところだ。
あいつが最後にどんな顔をしてたかもわからない。



















俺は形跡が残らないように足跡を消して、車の指紋を綺麗に拭いて自分が飲んだ酒を持ってその場を離れた。
正直夢中だったからそのあとどうやって帰ったかは覚えてない。














気付いたら家のソファーで寝てた。
そしたらリアが帰ってきて思わず抱きしめたんだ。


















リアは最初困惑してた。
でも俺はリアに救いを求めたかったんだ。


















あいつを殺したのは全部リアのせいだ。
リアに出会って、俺の世界は一変した。

あいつのことも、あいつを信じた自分自身でさえ、リアに出会ってしまった俺にはこの世界のすべてが汚れてみえた。
だから全部壊したくなった。
リア以外のすべてを。












リアは何も知らずに俺を癒した。
穢れのない、俺のリア。
君だけが俺の世界のたったひとつの光だった。

















だから俺はあいつを排除した。
俺たちのいるこの世界から。












































































翌朝。



















ベッドから起きたミカエルが寝室をでる。


















キッチンではアランが朝食を作っている。

アラン「起きたか。」
















アラン「飯ならすぐできるから先に顔洗ってこい。」


















アランを見つめて小さく頷く。






































顔を洗っているとアランがバスルームに入ってくる。

アラン「洗濯してるから、飯食って着替えろ。今日もでかけるぞ。」



































いつもより急いでパンを口に運ぶ。






































アラン「どこに行くのかって顔してんな。」



















アラン「釣りじゃねーよ。さすがに二日連続は飽きるだろ。」



















アラン「別に特別なことはしないからあんまり期待すんなよ。」

それを聞いてミカエルが頷く。


































パラダイス島 セントラルパーク。
















公園内に設置されたスケート場でミカエルが滑っている。
それをベンチからアランが見守っている。

















少し不安そうな表情だが楽しそうでもある。




















時折よろめいては慌てて手を広げバランスをとる。





















アラン「・・・・。」

















マッテオ「シルバーさん。」



















マッテオ「遅くなってすみません。」

アラン「いや。」


















アラン「あんた・・・もうちょっとマシな恰好なかったのかよ。」

マッテオ「すみません。スーツしか持って来てなくて。」















マッテオ「今日はお招きありがとうございます。」

アラン「あいつの誕生日なんだろ。あんたがいたほうがあいつも喜ぶ。」

















マッテオ「お気遣いありがとうございます。」

アラン「・・・あんた実年齢より老けて見られるだろ。」

マッテオ「え?」

アラン「そういうとこだぞ。」













アラン「何時までいられる?」

マッテオ「日暮れまでなら。」

アラン「十分だ。」















マッテオに気付いたミカエルが二人の元へやってきた。


マッテオ「こんにちはミカエル。お兄さんにはよくしてもらってるかい?」















ミカエルが頷く。

マッテオ「そうか。スケート上手だね。やったことはあるの?」

マッテオの問いかけにミカエルが首を振る。














ミカエルがアランの足元へ近づく。

アラン「 ? 」














ミカエル「・・・・。」

アラン「どうした?一緒に滑りたいのか?」


















ミカエルが大きく頷く。

アラン「いいけど・・・俺も別にうまくないぞ?」

ミカエルがもう一度頷く。
















ゆっくりとしたペースで二人で滑り始める。
マッテオはそれをベンチから見守っている。

















マッテオ「(たった3日なのに、言葉がなくとも意思疎通ができてる。やはり彼とは通じるものがあるんだろうな・・・。)」

















少しづつ滑ることに慣れてミカエルの表情も明るくなっていく。
















アラン「ほら。手かしてみ。」




















手をつないで二人でゆっくりと回り始める。
ミカエルが楽しそうにほほ笑む。
















ミカエル「お前なにやってもすぐ上達するな。見込みあるよ。」



















アラン「手離すぞ?」

ミカエルが慌てて首を振る。

アラン「ははっw 冗談だって。」

アランが楽しそうに笑った。

































午後。
パラダイス島にあるスパ&リゾート。

















3人はレストランのテラスで食事をしている。

アラン「こいつのほうが一番下手くそだったよな?」

ミカエルが少し考えてから頷く。

マッテオ「もう、二人ともわかりましたから。このあとのケーキは僕が奢りますよ。」











ミカエルが美味しそうにバナナサンドを口に運ぶ。














マッテオ「それにしてもここ本当に美味しいですね。全国展開してもいいと思うんですけどねぇ。」

アラン「うん。俺もそう思う。」

マッテオ「いや~、パラダイス島は本当に魅力が多いなぁ~。シルバーさんがここへ移住したきっかけはなんだったんですか?」














アラン「別に・・・なんとなく。ショアから遠い場所がよくて。」

マッテオ「へぇ~。確かに、環境をガラリと変えるなら気候も違う遠い土地がいいですよねぇ。
















アラン「あんたはローリングハイツか?」

マッテオ「はい。僕は産まれてこのかたあの街を出たことがなくて・・・。でも、こういうところもいいなぁって今回来てみて思いました。」














アラン「あんたには都会の方が似合うと思うぞ。この街はリゾートで来るにはいいところだけど、都会の人間が住むとなるとすぐに飽きる。」

マッテオ「そういうもんですか?」

アラン「ああ。」














ミカエルが咳き込む。

アラン「落ち着いて食え。ほら、水飲んで。」

マッテオ「ふふっ。すっかり父親みたいですね。」














アラン「んなわけねーだろ。ふざけんな。」

マッテオ「これは失礼w」


































数時間後。
















マッテオ「すみません。ホテルまで送っていただいて。」

アラン「帰り道だから気にするな。」


















マッテオ「じゃあミカエルいい子でね。お兄さんのいうことをよく聞くんだよ。」

ミカエルが頷く。














アラン「今夜も店に来るんだろ。」



















マッテオ「そう言われると行かないわけにはいかないですねw」

アラン「聞きたい話もある。」

マッテオ「わかりました。今夜は少し遅くなると思います。」

アラン「わかった。」













マッテオ「じゃあまたねミカエル。」

ミカエルが頷いて小さく手を振る。

































マッテオ「・・・・。」

















































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