2021年12月11日土曜日

こんな夜は

  






















アラン「ミカエル、ほら。」

ミカエル「 ? 」

















アラン「誕生日のプレゼントだ。」

アランがリボンの巻かれた箱を取り出すとミカエルが手を広げて明るい表情をみせる。
















アラン「開けていいぞ。」

ミカエルに期待の眼差しで見つめられてアランがいう。
















箱の中から出てきたのはカラフルな色のテディーベアだった。
ミカエルがそれを愛おしそうに見つめる。
















それを見つめるアランの表情にも思わず笑みが漏れる。


















ジャスミン「おじゃましまーす。」

ふいに玄関のドアが開いてジャスミンが入ってくる。
















ジャスミン「あら?どうしたのそれ。」

アラン「今日こいつ誕生日なんだ。」




































ジャスミン「それでぬいぐるみ?ちょっと子供扱いしすぎじゃないのぉ~?」

アラン「そうか?」

ジャスミン「7歳でしょ?それならゲームとかのほうが喜んだんじゃない?」













アラン「ゲームなんかやってたら目も悪くなるし、まだ年齢的に早いだろ。」

ジャスミン「そう?でもぬいぐるみってもっと小さい子にあげるもんじゃないの~?」















アラン「いいんだよこれで。じゃあ仕事行ってくる。」

ジャスミン「いってらっしゃい。」
















玄関へ向かうアランのうしろをミカエルが慌てて追いかける。

















アラン「ん?どうした?」

振り返ったアランに広げた腕を伸ばす。















アランがミカエルを受け止めて抱きしめる。

ジャスミン「・・・感動のお別れシーンね。」


































アラン「じゃあな。いっぱい飯食って早めに寝てろよ。」

ミカエルが名残惜しそうな目で見つめながら小さく頷いた。
















アラン「行ってきます。」

ジャスミン「いってらっしゃーい。」

















アランがいなくなるとジャスミンの前を素通りしてテディーベアの元へ向かう。

















ジャスミン「もっと早く言ってくれてたら私だってプレゼントくらい買ってきてあげてたわよ・・・。悪いかったわね、なにもなくて。」

















ミカエルが気にしていないという風に首を振る。


















ジャスミン「大事にするのよ~。なんか色が女の子用っぽいけどw」




















































マッテオ「今日は遅くなってしまいました。」


















アラン「いや、ちょうど空いてきたしいい時間帯だ。」

マッテオ「今日はありがとうございました。ミカエルも喜んでいるようでした。」















アラン「ああ。久しぶりにあんたにも逢えたし、嬉しかったみたいだな。」
















マッテオ「あなたとも仲良くやっていけてるようで、安心しました。」

















アラン「昔親戚の子の面倒をみせられてたから、子供の扱いには慣れてる。」

マッテオ「そうなんですね。」














アラン「俺の過去も調べてるんだろ。」

マッテオ「まぁ・・・親戚の家を転々としていたということくらいは。」

アラン「そうか。」













マッテオ「そういえば、なにか聞きたいことがあるって昼間おっしゃってましたよね。」

















アラン「あと一人の候補者は誰だ。」
















マッテオ「もう一人の方はDNA鑑定では100%父親ではないという結果でした。」

















アラン「誰だって聞いてんだ。話せよ。」

















マッテオ「・・・彼はあなたとは真逆なタイプの男性でした。正直僕はミカエルが彼の子供でなくて本当によかったと思っています。」

アラン「俺の知ってるやつか?」














マッテオ「おそらく・・・。まだスターライトショアに住んでいらっしゃいました。」

アラン「なにやってるやつだ?ホストか?」

マッテオ「いいえ。」













マッテオ「当時、あなたやマクドウェル氏と同じホストクラブでボーイをやっていました。」

アラン「名前は?」

マッテオ「エリーク ハーモンという男性です。」














アラン「エリーク・・・?なんであいつが?」

マッテオ「私も不思議でした。アリエルのタイプからはかけ離れている。」














マッテオ「ショアでマクドウェル氏について調べているときに彼の方から接触があったんです。一時期アリエルとは肉体関係にあったと自ら名乗り出ました。」

















マッテオ「マクドウェル氏の紹介で出会ったそうです。何度か女性も含めて飲みに行ったりした内の一人だったと言っていました。」














マッテオ「その後マクドウェル氏に振られたアリエルを慰めているうちに、肉体関係になったと。ただ正式なお付き合いはには至らなかったとおっしゃられていました。」















アラン「(たしかにデュアンは後輩の面倒見がよかったし、仲間を連れてキャバクラに行ったりもしてたな。)」
















マッテオ「アリエルとは恋愛感情はなく、ただお互いに寂しいから一緒にいたと話していました。数か月の間とおっしゃられていましたが。」

















マッテオ「彼は今現在もショアで暮らしています。仕事は長く続かず転々としてるようでした。」

アラン「・・・・。」

マッテオ「自分が父親でないと知ると安心していましたが少し残念そうにも見えました。マジソン家からの養育費を狙っていたのでしょう。」















アラン「そうか。」


















マッテオ「シルバーさんは、彼のことをどう思いますか?」

















アラン「正直地味なやつだったしあんまり話したことがないからよく知らねーな。」

















マッテオ「そうですか・・・。僕はアリエルがなぜ彼とそういう関係になったのか、とても不思議です。」
















アラン「お互い寂しかったって言ってたんだろ。それが真実なんじゃないか。」

マッテオ「しかし、アリエルのタイプはもっと男らしく顔も整った男だったのに。」













アラン「振られた直後だし誰でもよかったんじゃないか。寂しさを埋めてくれる相手であれば。あんたはあの女に幻想を抱きすぎなんだよ。」
















マッテオ「そうなんですかね・・・。」

アラン「ああ。女ってのは男が思うほど純粋で弱い生き物なんかじゃない。」































アランが玄関を開けるとジャスミンがビールを片手にテレビを見ている。

ジャスミン「おかえりぃ~。」















アラン「おい。お前なに呑んでんだよ。しかも俺の服着てるし・・・。」

ジャスミン「お風呂借りたのよぉ。着てた服洗濯機に突っ込んじゃったんだもん。」

アラン「・・・もういい。その服はやるよ。」












ジャスミン「アランも一緒に呑む?ビール買ってきてあるわよ~。」
















アラン「いやいい。タクシー呼ぶから帰ってくれ。」


















アランがポケットからスマホを取り出すとジャスミンが慌てて止めに入る。

ジャスミン「ちょっとぉ~、こんな格好で帰れないわよ!」

アラン「下も貸してやるよ。」











ジャスミン「いい気分で呑んでたのに興ざめしちゃうわね!全く。」

アラン「だいたい子守り中に呑むなよ。」

ジャスミン「深夜の子守りで私はバーにも行けないのよ?たまに吞むくらいいいでしょ~。ミカエルが寝たあとなんだし。」










アラン「ったく・・・。もう吞んじまったもんはしょうがないか・・・。」

ジャスミン「今日はもう泊っていく~!絶対によ!」

アラン「・・・・わかったよ。」












ジャスミン「あんたもたまには優しいところあるじゃない。」

アラン「寝るなら寝室で、あいつを起こさないようにな。」

ジャスミン「は~い。」












アラン「じゃあ俺は風呂入ってくるから。その間に片付けして寝てろよ。」

ジャスミン「わかってるわよ。」














ジャスミン「ふ~んだ、もう1本飲んじゃうもんね~♪」

















アラン「(はぁ・・・なんであの女まで・・・・。)」


















バスルームから出るとジャスミンは相変わらずソファーでビールを吞んでいる。
















アラン「・・・寝ろっつっただろーが。」
















ジャスミン「まだビール残ってるんだもーん。ほら、あんたもここ座って!」
















アラン「ハァ・・・。」

















渋々と冷蔵庫からビール缶を取り出しソファーに座る。

ジャスミン「今日はやけに素直じゃない?」
















アラン「疲れてんだよ。」

ジャスミン「あんたお酒が好きでバーテンやってんの?」

アラン「別に好きじゃない。」













ジャスミン「そうなんだ?じゃあなんでこの仕事はじめたわけ?」

アラン「なんでだろーな。」

ジャスミン「人と話すのが好きとか?」












アラン「いや・・・。ただ、人の話聞いたり会話を聞くのは好きかな。いろんな奴がいるんだなって、いい経験になる。」















ジャスミン「確かに。人間観察にはいい仕事かもね~。」

アラン「うん。」

ジャスミン「私はあんまり他人に興味ないからムリかな~。」

アラン「あんたはなんで夜の仕事を?」











ジャスミン「ん~・・・女は若くて綺麗なら簡単に稼げるじゃない。若い頃にそう思ってはじめた水商売を続けてたら今になったって感じ。」

アラン「そうか。」

ジャスミン「ジャスミンは源氏名よ。私のホントの名前はエミリー、ダサい名前よね。」

アラン「そうは思わないけどな。」

ジャスミン「・・・・。」













ジャスミン「女って得よね。ちょっと可愛ければ若いってだけでラクして稼げるもの。でもお金ってさ、稼ぐとどんどん使っちゃうのよね。」














ジャスミン「そうしたらもっとお金が欲しくなる。そしたらもっとラクに稼げるほうへって。キャバクラの客を捕まえて愛人契約とか、風俗とか。」

アラン「ふぅん。」













ジャスミン「意外に多いのよ。普通の大学生が風俗とかも。パパ活も流行ってる時代だものね。」

アラン「だろうな。」

ジャスミン「でも最近疲れてきちゃった。一時期3人いた愛人も今じゃ0だし。」













アラン「結婚しないのか?」

















ジャスミン「え~向いてないわよ~。子供好きじゃないし。」

アラン「・・・・。」

ジャスミン「あ、ミカエルのことは嫌いじゃないわよ?大人しいし、我儘言わないし。」










アラン「家庭を持って落ち着いたらどうだ?」

ジャスミン「そういうタイプに見える?」

アラン「いや・・・。」











ジャスミン「私の初恋の人ってね、純粋で優しくてみんなから愛されるそういう男の子だったの。」

アラン「(急に話変わったな。酒が回ってきたか。)」













ジャスミン「わかる?顔も可愛かったし、アイドルみたいな男の子。」

アラン「まぁ、たまにいるなそういうやつ。」

ジャスミン「そう。」












ジャスミン「でもそういう男って、意外とふつ~~~の子と結婚してたりするんだよね。幼馴染とか同級生とかさ。」

アラン「うん。」














ジャスミン「でもその男の子は大人になってもそのままなのよね。私が好きだったあの頃のまま、汚れた大人になんてなってないの。」















アラン「あんたにはそう見えてるだけで、相手も色々経験した結果だと思うけどな。」
















ジャスミン「人間の恋愛にもさ、ヒエラルキーあると思うのよね。純粋な人は純粋な人同士、汚れた人間は汚れた人間同士って。そういうもんだと思わない?」















アラン「・・・そうかもな。」

ジャスミン「アランはぁ~?初恋の相手どんな人だったの?」

アラン「教えねーよ。」

ジャスミン「なんでよ~~~。」













数時間後。















アランの肩にジャスミンの髪が触れる。
















アラン「(やっと寝たか。)」















ゆらりと揺れてアランの肩にジャスミンがもたれかかる。

アラン「 ! 」


その瞬間アランの脳裏に映像が浮かぶ。














どこかの公園の公衆トイレ。
辺りは真っ暗で人影もない。















男子トイレのドアの前に制服を着た若い男が立っている。
顔にはまだあどけなさが残っている。
















学生A「あぁ!すっげぇ気持ちいぃ・・・。そうそう、歯は当てちゃダメだよ~。前より上手くなったじゃん。」














学生B「ほら、こっち向けよブス。」

女学生「プハァ!」

学生B「ははっw すげえ顔してんな。いいか?今から中に出すからな?」

女学生「ダメっ!お願いだから中はやめて!」














学生A「ほら、休まないの。こっち向いてちゃんと咥えて。」

女学生「あっぷ。」

学生B「あっ・・・イキそ!やべっ、もうでるっ!」












学生C「ちょっとまだ終わんねーの~?早く代われよ。」

学生B「イクぞっ!うっ!!」

女学生「ばめっ・・・ばめでふっ!」

学生A「しゃべっちゃダメだって。あぁ~、もう最高っ♪」












アランが現実に引き戻されハッとする。
















アラン「・・・・。」

















ソファーで眠るジャスミンにそっとブランケットをかける。
















アラン「(なんで俺は本人が一番見られたくないもんばっかり見ちゃうんだろうな・・・。)」

















アラン「ベッドで寝るか・・・。」

































数時間後に目を覚ましたミカエルがベッドから起き上がる。
















同じベッドで眠るアランを不思議そうに見つめる。
















ミカエル「・・・・。」

































リビングへやってくるとソファーで眠るジャスミンに気付き立ち止まる。

















サイドテーブルに並ぶビール缶が目に入る。

















ミカエル「・・・・。」

































再び寝室へ戻るともう一度アランのほうを見る。


































もぞもぞと布団の中へ入りアランの腕の中へともぐりこむ。















アラン「・・・・。」
















小さな腕が背中へ周り、そっと抱きしめられる。
















小さなぬくもりを感じながら静かに瞼を閉じた。









































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