2021年10月23日土曜日

訪問者

 



「ん・・・・。」


夢から目覚めたアランがソファーから体を起こす。







アラン「(またこの夢・・・。この街に来てからみる回数が増えてる・・・・。)」








アラン「(身体が重い・・・。この夢をみるといつもこうだ。)」







アラン「ちゃんと寝るか・・・・。」


重い体を起こしソファーから立ち上がる。







明かりを消して寝室へと入っていく。








アラン「(もうすぐ夜明け・・・。)」








ベッドへ潜るとすぐに眠りについた。




















翌日。
太陽はもうすぐてっぺんに登ろうとしている。







ようやくアランがベッドから起き上がる。
眠る時間が深夜なので起きるのはいつもこの時間になる。








寝室を出るとすぐにバスルームへと向かう。









アラン「はぁ・・・。」

ため息をひとつついて歯を磨きはじめる。







アラン「(今までは3年おきくらいだったのに、最近半年に1回のペースでみてるな・・・。)」







アラン「(そろそろソファーで寝るのやめないとな・・・。この街であの夢をみる回数が増えてるのもきっとそのせいだろ。)」








顔を洗い昨夜タイマーをセットしておいた洗濯物を取り出す。








濡れた洗濯物を抱えてバスルームを出た。








熱いくらいの日差しで洗濯物を干す。
ほどよく風もあり気持ちのいい日だ。


















朝食は食べずにコーヒーだけ淹れる。









テレビをつけソファーへ座った。
サイドテーブルには昨夜の缶ビールがそのまま残されている。









アラン「(今日は仕入れもないし出勤はゆっくりでいいな。)」









テレビでは釣りの番組をやっている。
アランがいつもみている番組だ。








アラン「釣りするか。」




















家の目の前のスポットは意外とよく釣れる。
アランはよくここで釣りをしていた。








なにも考えずに糸を垂らしてボーっとする。
釣りを覚えたのはこの街に来てからだが、意外といい趣味だった。
アランには向いている。








しばらくすると釣り糸が水の中へ引っ張られる。









アラン「チッ。」

釣れたのはとても小さな魚だ。
昼飯にもならない。






アラン「お前・・・もっと大きくなってから出直してこいよ。」

魚へむかって愚痴を吐く。







アラン「まったく・・・。」

リリースしてまた糸を垂らす。







アラン「(あの夢をみた日は結局なにをやってもうまくいかないんだ・・・。)」





















しばらくすると一台のタクシーがアランの家の前で停まった。








タクシーを降りた男がアランへと近づく。


アラン「(ん?あいつ・・・。)」








男「失礼ですが、アラン シルバーさんですね。」

男がアランへと声をかける。









アラン「・・・あんた、昨夜バーにいたよな。」

男「ええ。」








男「弁護士をやっているマッテオ トーレスと言います。」









アラン「弁護士なんかが俺になんの用だ?」

アランが眉をひそめる。








マッテオ「マジソン氏からの依頼で参りました。」

アラン「マジソン?誰だそいつ。」








マッテオ「少しお時間よろしいでしょうか。あなたにとっても大事なお話です。」

アラン「・・・・。」




















男がスーツの内ポケットから一枚の写真を取り出す。

マッテオ「この女性をご存じですか?」









アランが写真へと目を移す。

マッテオ「彼女の名前はアリエル マジソンといいます。」








マッテオ「スターライトショアであなたとは何度かお会いしているはずです。」

アラン「・・・・。」

マッテオ「覚えていらっしゃいますか?」








アランが写真を手に取り見つめる。

アラン「この女がどうかしたのか?」









マッテオ「彼女は半年前に亡くなりました。」

アラン「・・・・。」

マッテオ「私は彼女の父親のマジソン氏の依頼によりここへ参りました。」








アラン「この女の死と俺がなにか関係があるとでも?」

マッテオ「いいえ。彼女の死因は自殺でした。部屋で首を吊って死んだようです。一人息子の目の前で。」








アラン「・・・・。」











マッテオ「彼女はまだ10代の頃、家を飛び出し男と駆け落ちしました。それまで暮らしていたローリングハイツを出て、恋人と二人でスターライトショアへ。」









アラン「子供っていうのはその恋人とやらの?」

マッテオ「いいえ。彼とは結局籍も入れていません。遠く離れた街での二人の暮らしはあまりうまくいかなかったようです。」








マッテオ「駆け落ちまでして家を出ましたが結局恋人とうまくいかなかった彼女は、どこにも行くあてがなくそのままスターライトショアで一人暮らしを始めました。」









マッテオ「その中であなたと出会った。そして恋に落ち子供をもうけた。」

アラン「それは違うな。俺は恋人なんかじゃない。」

マッテオ「しかしあなたと体の関係を持ったことは事実でしょう。」







アラン「あの女ほかにも男いたはずだろ。弁護士ならよく調べろよ。」

弁護士「他の男性についても調べています。しかし子供の父親の可能性は、あなたが一番高い。」

アラン「なんでだよ。」








マッテオ「彼を一目見ればわかりますよ。しかし、実際にあなたの子供か調べるためにもDNA鑑定を受けていただけませんか。」

アラン「なんで俺が。認知なんてしないよ。」








マッテオ「マジソン氏は子供の本当の父親が引き取らないなら里親に出すと言っています。」

アラン「俺には関係ないね。」

マッテオ「これは個人的な意見ですが・・・・私の依頼主はローリングハイツの大富豪ではありますが、残念ながら冷酷な男です。」







アラン「・・・・。」










マッテオ「子供を引き取るのであれば養育費としてそれなりの報酬は出すそうです。ただし、今後一切マジソン家には関わらないようにと。それが依頼主からのメッセージです。」

アラン「・・・・。」

マッテオ「まずはDNA鑑定を。3日後にまた来ますので、それまでに考えておいてください。」








男が去っていく。









一人になった後、男が置いていった写真を再び手に取った。










アラン「(この女のことは覚えてる・・・。綺麗な顔の、でも幸の薄そうな女だった。)」









アラン「(最後に会ったのはリアに出会う数か月前だ。)」











はじめて会ったのは俺がまだホストクラブでバーテンをしていた頃だ。
No,2のホストをよく指名していた。
それから半年くらいして、あの女は俺の働いているバーへやってきた。








誰から聞いたのか知らないが、あの女は俺を買うと言った。
そんなにお金があるようには見えなかったけどホストに来るぐらいだし、きっとキャバクラとかで働いていたんだろう。








べつに俺を気に入っているとか、そういう風には見えなかった。
ただ寂しいのかなって思った。
だから俺は金をもらってあの女を抱いた。








あの女は3ヶ月連続で来て、それからぱったりと会いにこなくなった。









アラン「(ちゃんとゴムは付けてたけど・・・まぁ細工されてたとしてもわかんないよな・・・。だとしたらなんで・・・・。)」



































アランはいつものようにバーのカウンターに立っている。
今日は客も少なく店内は静かだ。










アラン「・・・・。」









ふいにドアが開いて客が入ってくる。

アラン「いらっしゃ・・・・ポーターさん。」










ポーター「よぉ。元気にしてたかアラン。いつものね。」

アラン「はい。お久しぶりですね。」

ポーター「仕事でしばらくローリングハイツに行ってたんだよ。」








アラン「(またローリングハイツか・・・。)」

ふと昼にきた弁護士の話を思い出す。









ポーター「どうした?今日は客も少ないし、店の売り上げでも落ちてるのか?」

アラン「いえ、月曜はいつもこうでしょ。安心してくださいオーナー。」

ポーター「ハハッ。そうか。」







ポーター「それにしても浮かない顔だな。」

アラン「そうですか?いつもと変わらないですよ。ポーターさんは出張どうでした?」

ポーター「ん?俺か。」

アラン「ローリングハイツと言えば、確か前の奥さんがいらっしゃる街でしたよね。」







ポーター「そうなんだよ。よく覚えてたな。」

アラン「俺記憶力はいいので。」

ポーター「久しぶりに会ってきたんだけどさぁ。いや~、全然変わってなかったね。」







アラン「お子さんいらっしゃいましたよね。」

ポーター「ああ。今年7歳になる男の子だよ。」

アラン「会えましたか?お子さんには。」

ポーター「うん。ローリングハイツには遊園地があるからな。一緒に遊園地に行ってきたんだ。」







アラン「いいお父さんですね。」










ポーター「だろぉ~?こんな父親置いてなんで出てったのかな。」









アラン「あなたが仕事に呆けてたからじゃないですか。前の奥さんの口癖だったんでしょう?」









ポーター「何で知ってんだよ。」

アラン「いつも酔うとその話するでしょう。」

ポーター「そうだっけ?」

アラン「そうですよ。」






アラン「どうぞ。」

アランがテーブルにオレンジ色のカクテルを置く。








ポーター「うん、相変わらず君の作るカクテルはうまいな。俺が見込んだ男だけのことはある。」









アラン「ありがとうございます。お褒めに上がり光栄です。」








ポーター「アランはいくつだっけ?」

アラン「歳ですか?もうすぐ32です。」

ポーター「結婚はしないのか?」








アラン「しないですよ。俺も仕事人間なんで。」









ポーター「あ~、それ俺に対する嫌味?」

アラン「違いますよ。」

ポーター「これだからイケメンは。は~やだやだ。」








アラン「俺は自分の店を持つことが夢なんで。女はいらないんです。」

ポーター「まぁそう言うなって。きっとまだ運命の女性に出会ってないだけだよ。」

アラン「運命の女性ならもう出会いましたよ。」








ポーター「え?そんな子いたの??だれだれ?俺に紹介してよ。」

アラン「いやいや。彼女はきっともう恋人と結婚して今頃は子供もいるんじゃないですかね。」

ポーター「なんだ、フラれちゃったのか~。イケメンでもフラれることあるんだ?」








アラン「もちろんありますよ。」

ポーター「それは残念だね。でも、またきっといい人に出会えるよ君なら。」

アラン「いやぁ、もういいです。」







ポーター「でもさぁ、独身って寂しくない?」

アラン「ポーターさん、あなたも独身でしょう?」

ポーター「でもほら、俺には子供もいるし。会いに行けばいつでも会えるからさ。」







アラン「子供ねぇ。」

ポーター「今ってほら、体外受精で子供作ることもできる時代だろ?自分の子供欲しいとかないの?」








アラン「俺みたいなのが産まれたら可哀そうでしょう。」









ポーター「なんでだよ。その顔で産まれてきたらもうそれだけで勝ち組じゃん。」

アラン「そんなことないですって。」








ポーター「あれ?もしかしてアラン小さい頃顔のせいでいじめられてたとかあるの?」

アラン「いや、それはないですけど。」

ポーター「じゃあなんだよ。」







アラン「中身の問題ですよ。」

ポーター「ふぅん。中身ねぇ~。」














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