2013年8月10日土曜日

夏の恋は幻








リア「キャーッ!!」


女子トイレのほうからリアの悲鳴が響く。

















レオン「どうした?!大丈夫か!」


手探りで壁を伝い、なんとか女子トイレへかけこむ。

















少し暗闇に目が慣れてきたおかげで、リアがうずくまってるのが見える。


レオン「リアか。」

リア「レオン・・・さん・・・?」














二の腕を掴んでリアを起こすとレオンに抱きついてくる。


リア「・・・っ!」

レオン「どうした?痴漢でも出たのか?」















リアが震えながら首を横に振る。


リア「怖くて・・・。」

レオン「雷か?」

リア「そうじゃなくて・・・・暗闇が・・・・。」














震えるリアの体をそっと抱きしめる。


レオン「ただの停電だよ。どっか落ちたのかもな。すぐ復旧するだろ。」

リア「・・・・ホントに?」

レオン「ああ。」












リア「明かりが点くまで・・・一緒にいてくれる?」

レオン「いいよ。」

リア「・・・・。」

レオン「大丈夫だよ。俺がいれば怖くないだろ?」


ポンポンとやさしく背中を撫でる。


リア「・・・うん。」









静かに音をたてて、すべての明かりが灯る。
突然の明るさにレオンが目を細める。


レオン「点いたな。」

リア「・・・・。」


ほっとしたようにリアが小さく息をもらす。












リア「あ・・・ありがとう・・・・。」


そっとレオンの胸を押して体を離す。


レオン「ああ・・・うん。(もうちょっと胸の感触を味わいたかったのに・・・。) 」














リアがそっと涙を拭う。

レオン「泣いてたのか・・・。そんなに怖かったのか?」

リア「・・・子供の頃から・・・苦手で・・・・。」

レオン「そうなのか。」

リア「・・・・。(さっきそっけない態度しちゃったあとだから、恥ずかしい・・・・。) 」

レオン「送っていくよ。もう終わるんだろ?」










リア「え?でも・・・。」

レオン「俺ももう帰るところだし。外どしゃぶりだから、駅まで行くのにずぶ濡れになるぞ。」

リア「いいの・・・?」

レオン「おう。だから早く仕事終わらせろ。」

リア「う、うん・・・。」











雨の中、一台の車が走る。
雨音が車の屋根をたたく。



















リア「いい車乗ってるんだね。」

レオン「まぁな。」

リア「家金持ちだもんね。」

レオン「アホ。自分で買ったんだよ。」

リア「そうなの? (お父さんに買ってもらったのかと・・・。) 」












レオン「仕事はじめて最初に買ったやつだからな。」

リア「へぇ~。」

レオン「職場の車は運転荒くてもいいけど、自分のは大事に乗ってんだよ。(おかげでよくぶつけてアイザックさんに怒られるけど。)」

リア「そうなんだ・・・?」

レオン「女と車は大事にしないとな。」












リア「シエラさんのこと・・・大事にしないとね。」

レオン「え?あ、ああ・・・そうだな。」

リア「・・・・。」
















リア「あ、あの家です。」

レオン「おう。」


















家の前で二人が車から降りる。




















リア「べつに、わざわざ降りなくてもよかったのに。」

レオン「家に誰もいなかったら不安だろ?誰かいるみたいだから安心したよ。」

リア「うん・・・。」















リア「ありがとう・・・送ってくれて。」

レオン「おう。雷も止んだし、もう停電はなさそうだな。」

リア「うん・・・。停電になっても、誰かいるからきっと大丈夫。」

レオン「そっか。」















レオン「リア。」

リア「え・・・?」

レオン「がんばれよ。」

リア「・・・・?」

レオン「お前は十分いい女だよ。」













リア「・・・自分が彼女できたからって・・・偉そう。」

レオン「ははっw そうだな。」

リア「・・・がんばるわよ。」

レオン「おう。じゃあな。」

リア「うん。」












レオンが雨の中を駆け足で車に戻っていく。
黙ったままその背中を見つめる。




















リア「 (バカ・・・・。) 」




















リアが玄関を開けて中に入る。


アラン「おかえり。」

















リア「ただいま。アラン、最近よくリビングにいるね。」

アラン「退屈だから。」

リア「そうなんだ?リサは?」

アラン「まだ帰ってない。」














アラン「この前の男と違うね。」

リア「え?」

アラン「上げないの?」
















リア「あげるって、家に?」

アラン「うん。いいよ?連れ込まないって決まりは特にないし。コーヒーくらい。」


















リア「べつに、雨だから送ってもらっただけだし。」

アラン「そうなんだ?」

リア「うん。・・・ただの、会社の先輩だし。」
















アラン「ふぅ~ん。」

リア「・・・・。」

アラン「・・・・。」

















リア「お風呂もらうね。」


リアが階段を上がっていく。


アラン「ごゆっくり~。」














静かなバスルーム。




















リア「ぷはぁ~!」


リアが水しぶきを上げて水から顔をあげる。

















リア「はぁ~・・・。」


リアが大きなため息をつく。


リア「 (アラン、全部見抜いてるみたいだったな・・・・。) 」













リア「 (なんでいまさら気づいちゃったのかな・・・・。自分の気持ちに・・・・。) 」




















リア「 (この先あの二人がつきあってることを周りに公表して・・・結婚して・・・・。あのまま会社で同じオフィスにいるの、辛いな・・・・。) 」


















翌朝。


リア「おはようございま~す。」


リアがオフィスに入ってくる。


同僚「おはよ~。」












レオンの席にふと目をやる。




















リア「 (まだ来てないか・・・。昨日のお礼、ちゃんと言おうと思ってたのに・・・・。) 」




















昼前。




















ふとキーボードを打つ手を止め、リアがレオンの席を見やる。




















リア「 (今日はもう出社しないのかな・・・。でも課長からなんの報告もないし・・・どうしたんだろう?) 」



















リア「 (それに・・・シエルさんも休んでるみたい。昨日あのあと会社には戻ったのかな?) 」



















リア「 (二人とも休みなんて・・・有給でもとっていちゃついてるのかな・・・・?) 」



















お昼休憩をとったリアはトイレにいた。


同僚の女性「あ、リアちゃん。」


















同僚の女性「お昼どこで食べてたの?探したのに~。」

リア「今日は外に食べに行ってて。」

同僚の女性「あの噂聞いた?」
















リア「え?噂ってなんですか?」

同僚の女性「シエラさんよ。」

リア「・・・シエラさんがどうかしたんですか?(もしかして、レオンさんとのこともう・・・?) 」

同僚の女性「逮捕されたって話!」














リア「え・・・?逮捕・・・?」

同僚の女性「別の部署の子が見たらしいんだけど、昨日出たまま会社に戻らなかったじゃない?」

リア「はい・・・。」

同僚の女性「取引会社のほうで突然数人の警官に囲まれて、彼女連れて行かれたらしいわよ。」

リア「逮捕って・・・なんで・・・・。」











同僚の女性「それがね、インサイダー取引をしてたらしいの彼女。」

リア「インサイダー・・・?」

同僚の女性「取引先の会社にいた恋人に、株価の情報流してたみたいよ。」

リア「恋人に・・・・。」

同僚の女性「それでそのとき警官と一緒にレオンさんもいたらしいの。潜入捜査してたんじゃないかって。」










リア「え??潜入捜査って・・・レオンさんがですか?」

同僚の女性「そう。シエラさんを逮捕したのがレオンさんらしいのよ。そのとき警察手帳を出したのを見たって、ほかの部署の子がね。ちょうどその子も取引先の会社にいたらしくて。」

リア「・・・・。」













同僚の女性「ほかの部署ではすごい噂になってるらしいわよ~。」

リア「でも・・・レオンさんは引き抜きだって・・・。」

同僚の女性「たぶん上層部の人は知ってるんじゃないかしら。もしかしたらほかの部署や取引先にも潜入捜査官が入ってたのかもしれないわね~。」















リア「 (潜入捜査官・・・?でも・・・つきあうって言ってた話は・・・?全部嘘だったの・・・・?) 」




















リア「課長。」


リアがオフィスに入ってくる。

















課長「なにかね?」

リア「レオンさんが捜査官だって話、本当ですか?」


















課長「ああ・・・その話はもう広まっているのか。」

リア「・・・・。」

課長「明日公に発表される予定だから、その後みんなには説明するつもりだったんだが・・・。」
















リア「本当なんですね・・・。」

タイラー「 (レオンさんが・・・捜査官・・・?) 」



















課長「本当だ。だが、外部にはこの話はしてはダメだよ?いいね?」

リア「・・・はい。」

課長「そういえば君には伝言を預かっているんだった。」















リア「え?」

課長「君になにか聞かれたら伝えるようにと。」

リア「・・・・。」

課長「嘘をついて悪かった、だそうだ。」














リア「 (悪かったって・・・・なによ・・・・。) 」






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